朔太郎の故郷で詩にまみれた日。前橋ポエフェス雑記帳

去る5月28日(日)は群馬県前橋市に遠出しておりました。実に一年ぶりの前橋。用事は去年に引き続き「前橋ポエトリー・フェスティバル2017」内のイベント、前橋文学館でのポエトリーリーディングでした。去年の同じ時期に初めて前橋文学館のホールでリーディングをしたのが、私のリーディングの原点のひとつになっています。

前橋ポエトリーフェスティバルは、新井隆人さんをはじめとする「芽部」の方々が工夫をこらし、地元の商店街も県内外の詩人も巻きこんで行われている、力と熱量のあるイベントなのです。

 
おはよう前橋
この日は快晴で、外を歩けばすぐに汗ばむくらいでした。
前橋文学館は館内のそこかしこに萩原朔太郎の詩の一節が現れる空間です。


ガラスの面に朔太郎の詩の一節が書いてあるのですが……
この日は物販の時間と場所も設けていただきました。私は、4月16日の千葉詩亭で限定10部で販売した「ポエトリーのおもちかえり」を新たに10部、増刷して販売しました。B4の紙をただ折ってホチキス止めしただけの冊子で、裁ち切りもなにもせず、モノクロでそっけないので、今度はもうすこしちゃんとした冊子を作りたくなりました。梁川梨里さんの詩集『ひつじの箱』、表紙がとてもかわいかったな……詩集をモノとして愛おしめたり、飽かず眺めたり、楽しく手に取ったりできるかどうかって大切だと思うのです。

ポエ鳥ー
 午前のプログラムはヤリタミサコさんのマエバシ詩学校、支倉隆子さん(リーディングは金井裕美子さん・栗原秀平さん)。詩や詩人が同時代であること、社会とわかちがたく結びついていることについてやはり立ち止まって考えてしまいます。
お昼はヤギカフェさんによるポエフェス特別サンドイッチ。町なかの川にしては高い水位でごうごうと流れる広瀬川のほとりのあずまやでいただきました。

サクワラハギタロウ先生だそうです。
 お昼休みを利用して、事前募集のあった「水の詩と写真街なか展覧会」を見に、大急ぎで中央通り商店街へ向かいます。

水に浮くものみな舟としてあれば今漕ぎいでて桜あたらし(廣川ちあき)

川よりもはるか高きに積み上げて街は真中に尖塔をもつ(廣川ちあき)
 芦田みのりさん、如月未倖さんと一緒に、当日来られない詩人からのリクエストも含めて、写真と詩の作品を次々に撮ります。言葉と写真のひとつひとつに立ち止まる時間がないのが惜しい。
去年の前橋ポエトリー・フェスティバルで野村喜和夫さんが披露された前橋詩篇の作品も。

野村喜和夫さんの作品

いってらっしゃいませ
 前橋文学館の午後は、文月悠光さんの前橋詩篇から始まり、それに総勢34名人の詩人のリーディングが続きます。萩原朔美館長による寺山修司の朗読から、最後の田中庸介さんのリーディングまで。長野の朗読詩人、GOKUさんのリーディングがすばらしくて、休憩時間に「あの、とっても好きでした」と言ったところ、村田活彦さんとURAOCBさんに「卒業式に先輩に告白してるみたい」と左右からつっこまれる事態になりました。
34人それぞれまったくちがうスタイルのリーディングでしたが、時折電流が走るようにはっとさせられるフレーズにはいくつも出会いました。テクストや意味を大事にすると同時に、身体が伴ってくるリーディングってどうしたらできるのかな、ということも考えながら見ていました。

このあとマイクスタンドを移動します。photo by Ryuto Arai
 私は「早春の広場」と「本を冷蔵庫に入れた話」のリーディングをしました。「本を――」は久しぶりにオフビートで読んだのですが、間やアーティキュレーションがトラックに支配されないぶん難しくもあり、自由でもありました。マイクスタンドも外して読んだのですが、逆にテキストを持って読んだらどうなるだろうと思ったり……まだまだ試すことがたくさんありそうです。

前橋ポエトリー演奏会を経て、レセプションへ。ロブソンコーヒー・アーツ前橋店は、ここは青山か六本木かと見まがうおしゃれ空間でした。

ロブソンコーヒー

 萩原朔美館長ともお話をさせていただき、館長の「前橋文学館を日本一の文学観館に!」という熱意を改めて感じました。私の地元は地元で高志の国文学館を擁しているので、なんだかどちらを応援したらいいかわからなくなりましたが、前橋文学館はとてもおもしろいし、これからもっとおもしろくなっていくのだと思います。展示ケースにあんなにたくさんのビックリハウスが詰め込まれている文学館もそうそうないですし、もっとたくさんの仕掛けが潜んでいる気がするのです。

芽部の新井さんがレセプションの閉会時におっしゃっていたのですが、前橋ポエフェスは自治体や財団からの助成は受けず、できる限りの規模で手作りで開催しているイベントとのことです。必ずしも十全に恵まれた条件ではないとしても、できる範囲で最大限に、人と人をつなぎ、人と詩をつなぎ、おもしろいことを作り出そうとしている姿勢に尊敬の念をおぼえます。それに呼応して詩人をはじめとする参加者も、知らず知らずのうちに自ら楽しくなろうとしていると思います。
日帰りで慌ただしくても前橋に行きたいと思える理由はここにあります。


前橋でもらった刺激をしばらくは忘れず、また普段どおり読んだり書いたりしていきます。ありがとうございました!

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